Home>ニュース

ニュース

RSS Twitter Facebook
前の記事 次の記事 | 一覧

細川俊夫の新作オペラ《ナターシャ》新国立劇場で世界初演

2025年 8月 4日付

細川俊夫/Toshio Hosokawa

photo © Kaz Ishikawa

細川俊夫の新作オペラ《ナターシャ》の世界初演が8月11日から東京の新国立劇場で幕を開ける。台本は、ドイツ語・日本語の両言語により旺盛な創作活動を続けている多和田葉子が新たに書き下ろした作品。クリスティアン・レートが演出を担当し、長年、細川と多くの作品で協働してきた大野和士が指揮を務める。

細川は、1998年のミュンヘン・ビエンナーレで初演された《リアの物語》以来これまで、エクサンプロヴァンス音楽祭委嘱作品《班女》(2004)、モネ劇場委嘱作品《松風》(2011)、ハンブルク州立歌劇場委嘱作品《海、静かな海》(2016)、シュトゥットガルト歌劇場委嘱作品《地震・夢》(2018)、そして、室内オペラ《大鴉》(2012)と《二人静》(2017)の7つのオペラを作曲している。これらの作品は《班女》や《松風》を中心に、様々なプロダクションでの再演が重ねられており、現代オペラ作品として確固たる評価を得ている。

《ナターシャ》は新国立劇場芸術監督である大野和士による日本人作曲家委嘱作品シリーズ第3弾として、同劇場により委嘱された作品である。細川にとって8作目のオペラとなる今作は、コロナ禍や世界中で勃発している戦争、環境問題など、現代の我々を取り巻く様々な問題への深い思索の旅とも言える作品となっている。《海、静かな海》や《地震・夢》を通して、東日本大震災が残した大きな爪痕としての問題や世界の様々な場所で起きている分断の問題などに正面から向き合ってきた細川の思索の旅路は、現在も続いているのだ。

今回、台本を手がけた多和田葉子は、細川の初めての子供のための作品となった、語り手とアンサンブルのための《遠くから来たきみの友だち》(2021)において、今回のオペラ同様、新しい作品を書き下ろしている。この作品は2021年に世界初演され、大成功を収めて以降、ヨーロッパ各国で上演され、多くの子どもたちを喜ばせてきた。今年4月に待望の日本初演が行われ、熱い喝采を受けたことは記憶に新しい。多和田と細川はこの作品の成功により、新しい作品の共同製作への確かな手応えを掴んでおり、それが今回のオペラの創作へと繋がっている。

今、気候変動や戦争などの影響により、また、経済活動の加速化によりもたらされる過酷な労働によって、人間のみならず、地球上の様々な生物が絶えずうめきを漏らしている。多和田と細川の協働によって創られたこの新しいオペラは、こうしたうめきに耳を澄ます。

日本語とドイツ語を行き来しながら創作活動を続ける多和田の言語のあり方への鋭い眼差しは、現状の破壊的な状況を人間の言語がもたらすものと認識しつつも、人と人が言葉を介して心を通わせる希望をも描いている。多和田の文学と細川の音楽が響き合う時、魂と魂の対話が歌を通して導き出され、新たな世界を目指す希望へと繋がっていく。

作品中では、異なった背景と言語を持つナターシャとアラトが出会い、メフィストの孫と名乗る案内人の導きで、この世の地獄を巡っていく。ゲーテの『ファウスト』とダンテの『神曲』を思わせる世界を巡りながら、ナターシャとアラトは性や言語の境界を越える新しい愛を見つけ、新たな世界への道筋を見出していく。

音楽面では、多言語による台本から導き出される多様な歌唱表現、細川のオペラとしては大編成となるオーケストラ、そして、現代の問題を鋭く描き出すためのジャンルを越えた音楽の採用、非楽音の積極的な使用、大規模な電子音響による舞台効果、更に、様々な場面で重要な役割を果たす合唱など、注目すべき点が多く見られる。

ソリストとして、これまでの細川の作品でも様々な活躍を見せてきたソプラノのイルゼ・エーレンスがナターシャを、期待のメゾ・ソプラノ山下裕賀がアラトを、近年、現代作品において高い評価を得ているクリスティアン・ミードルがメフィストの孫を歌い、脇を固める準ソリストとも言える配役に、森谷真理、冨平安希子、タン・ジュンボらが並ぶ。サクソフォーン奏者の大石将紀とエレキギター奏者の山田 岳の登場にも注目してほしい。

このオペラは作品全体が、これまでの細川の創作において重要な役割を果たしてきた音楽による「音の橋がかり」=「音のトンネル」としての役割を担っている。ナターシャとアラトはこの「音のトンネル」を潜り抜けることによって、新たな世界へと進む一歩を踏み出すのである。今年、70歳を迎える細川のこれまでの集大成とも言える「音のトンネル」は、観る者にどんな世界を見せてくれるだろうか。

【新国立劇場 関連リンク】
多和田葉子の台本による細川俊夫の新作オペラ《ナターシャ》によせて(柿木伸之)
【コラム】多和田葉子の創作とオペラ『ナターシャ』(山口裕之)
【公演関連イベント】新作オペラ『ナターシャ』創作の現場から~台本:多和田葉子に聞く~
【動画公開】『ナターシャ』創作の現場から~台本:多和田葉子に聞く~
【インタビュー公開】指揮 大野和士(芸術監督)・アラト役 山下裕賀
【インタビュー動画】作曲 細川俊夫に聞く
【動画公開】新作オペラ『ナターシャ』創作の現場から~細川俊夫・大野和士・有馬純寿が語る~
オペラ『ナターシャ』リハーサル開始!顔合わせ・演出コンセプト説明会レポート
【動画】公演トレイラー映像を公開しました
【関連リンク】
細川俊夫作曲、多和田葉子台本によるオペラ《ナターシャ》世界初演へのお誘い(柿木伸之)
細川俊夫
《ナターシャ》
オペラ(1幕 プロローグと7場)
Natasha
Opera in one act (prologue and 7 scenes)

オペラ台本(日本語、ドイツ語、ウクライナ語ほかによる多言語):多和田葉子

【世界初演】
新国立劇場(東京)
2025年8月11日[月・祝]14:00/13日[水]14:00/15日[金]18:30/17日[日]14:00
https://cms.nntt.jac.go.jp/opera/natasha/

前の記事 次の記事 | 一覧