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作曲家

細川俊夫
Toshio Hosokawa
1955.10.23 –



© Kaz ishikawa

海、静かな海
Stilles Meer




海、静かな海(2015)Stilles Meer

オペラ(1幕5場)
原作(日本語):平田オリザ ドイツ語翻訳:ドロテア・ガストナー オペラ台本:ハンナ・デュブゲン
登場人物:クラウディア(ソプラノ) ハルコ(メゾソプラノ) シュテファン(カウンター・テナー) ヒロト(テノール) 漁師サカモトタロウ(バリトン)
編成: 2(2.pic&afl).2(2.ca).2(2.bcl).1.cbsn-4.2.3.1-4(I: b-dr, ratchet, maracas; II: tam-t, 3tri, 4rins on timp; III: b-dr, s-dr, tam-t, 3tri, sleigh bells, vib, 4bng, whip, 4furins, maracas, water; IV: 4bng, 3tri, 3sus cym, anti cym, 4rins on timp, maracas, 4furins, s-dr, water)-cel, hp-str(12.10.8.6.4)
演奏時間: 90分
委嘱: ハンブルク州立歌劇場がエルンスト・フォン・ジーメンス音楽財団の助成を得て
初演:2016年1月24日・27日・30日・2月9日・13日 − ハンブルク − スザンヌ・エルマーク(クラウディア)、藤村実穂子(ハルコ)、ベジュン・メータ(シュテファン)、Viktor Rud(ヒロト)、マレク・ガセツェッキ(漁師サカモトタロウ)、平田オリザ演出、Philharmonisches Staatsorchester Hamburg、Vokalsolisten Hamburg、ケント・ナガノ指揮
出版社: ショット・ミュージック 演奏用楽譜: レンタル

あらすじ

福島第一原発から20キロメートル、立ち入り禁止区域の境界にある浜辺(ただし劇中では、「福島」という地名は一切出てこない)。震災から七年ほどが経った春、町の人々が、お彼岸(死者の魂を迎え、また送り出す)のセレモニーを行っている。そこに、ドイツ人のバレエ教師クラウディアがやってくる。クラウディアは、津波で亡くなった夫タカシの死は受け入れているが、未だに息子マックスの死を受け入れていない。

義姉のハルコが、クラウディアを探しにやってくる。ドイツから、クラウディアを迎えに前夫のシュテファンが来たと伝える。町の人々は、これから、死者の魂を送るために灯籠を海に流しに行くと言う。シュテファンがやってくる。町の人々は、灯籠を流しに行くために退場する。シュテファンは、クラウディアにドイツに帰ろうと迫るが、クラウディアはまったく取り合わない。クラウディアは、能『隅田川』の一説を口ずさんで去って行く。

残された二人。ハルコは、シュテファンに、現在のこの地域の状況について説明する。昼間だけは入れる地域があること。お墓のある地域は放射線が強いので防護服を着ないとは入れないこと。そして、『隅田川』が、母と子の別れを描いた作品であることも告げる。クラウディアは普段は普通に生活をしているので、その精神状態は誰にも分からない。本当にまだ自分の子供が生きていると信じているのか、完全に錯乱しているのか。

先ほどの町の人々のうちの一人、漁師のタロウが戻ってきて、娘のミユキがクラウディアにバレエを習っていることをシュテファンに話す。シュテファンは、なぜクラウディアがドイツに戻らないのか、まったく理解できない。

やがてクラウディアが戻ってくる。

シュテファンはクラウディアにドイツに戻るように呼びかけるが、クラウディアはここは安全だと言い張る。シュテファンはクラウディアに、「もう分かっているんだろう、マックスはもういない。マックスがもういないから、君はここにいるんだ」とクラウディアの矛盾を指摘して、現実を受け入れるように説得する。ハルコもまた、現実を受け入れ、一度ドイツに帰ったらどうかと勧める。

しかし、クラウディアは、「その現実とは何か?」と反論する。「自分たちは見えない現実と闘ってきた」と言い、津波の直後の壮絶な風景を語り出す。「見えない現実を見て」と訴えるクラウディアに、シュテファンは「マックスはもういない。お互いに昔のように助け合おう」と懇願するが、クラウディアは「わたしはもうあなたが愛した私じゃない。ここが私の家です」とシュテファンにドイツに帰るよう言い捨てて去って行く。

ハルコもまた、残った者の寂しさ、出ていった者の苦しみを語る。シュテファンは、長い間会えなかったマックスへの思いを語る。

ハルコは、『隅田川』を演じてみることで、クラウディアの気持ちが変わるのではないかと提案する。ハルコはシュテファンに『隅田川』のラストシーンで、幻の子供が甦り、しかし最後には消えていく悲しい結末を説明し、二人で念仏を唱える。

二人はクラウディアに近づき、『隅田川』を演じる。途中から、クラウディアもハルコと共に『隅田川』の歌詞を歌う。そこに、念仏によってあたかも子供が甦ったかのように、クラウディアの教え子の少女ミユキがやって来て、バレエを披露する。そこに少女の父親、先ほどの漁師タロウが、町の人々を連れてやって来る。町の人々はみな、放射能の防護服を着ており、これから墓参りに行くと言う。

町の人々を見送ったあと、クラウディアは、「みな、それぞれの故郷に帰ろう」と言う。海を眺める三人。クラウディアは、「自分は家族で海を眺めいている時間がいちばん好きだ」と語る。

やがて、日が暮れていく。遠くに、海を流れていく灯籠の明かりが見える。

上演履歴

2016年1月24日・27日・30日,2月9日・13日 — ハンブルク州立歌劇場(ハンブルク,ドイツ)
世界初演
演出:平田オリザ
スザンヌ・エルマーク(クラウディア),藤村実穂子(ハルコ),ベジュン・メータ(シュテファン),Viktor Rud(ヒロト),マレク・ガセツェッキ(漁師サカモトタロウ),Philharmonisches Staatsorchester Hamburg,Vokalsolisten Hamburg,ケント・ナガノ(指揮)